古荘純一先生
青山学院大学教育人間科学部教授、小児科医、小児精神科医。臨床現場で一貫して、神経発達に問題のある子ども、不適応をかかえた子どもの診察を行っている。主な著書に『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか――児童精神科医の現場報告』『教育虐待・教育ネグレクト』(ともに光文社新書)等がある。
shizuka’sCafe第一回のお客様は、発達障害の専門家である古荘先生。
「発達障害のお子さんって、基本的に主体性のカタマリ。自分はやりたいことがたくさんあるから、邪魔をしないでと (笑)。おそらくそう思っているんです」と、楽しそうに話す。
子どもたちや当事者は何を考えているのか?そんな視線を持つことが彼らとのよいコミュニケーションを結ぶカギになるはずだ。
発達障害の子どもたちだけでなく、私たち一人一人みんな凸凹のある人間。相手の凸凹を、まずこちらから理解しようとすることは、誰にとっても大事なコミュニケーションの視点ではないだろうか。
発達障害は「個性」ではなく脳の「疾患」
とくに印象的なのが発達障害を「個性」ではなく脳機能の「疾患」としてとらえるというところでした。私もよく「ADHDタイプだから」とか「あなたは自閉症タイプ」というように言っていました。脳機能の疾患としてとらえる視点で見ることの大切さについてお話しいただけますか?
たしかに、こだわりが強いとか、注意力がない、行動問題があるお子さんはいらっしゃいます。ただ、個性や環境では理解できない問題を抱えたお子さんがいるんですよね。あいまいな人たちを全部まとめて語ってしまうと、コアの発達障害の正しい理解につながらない。ほんとうに支援が必要な方への支援が届かなくなってしまうと思うのです。それを本で伝えたかったんですね。
発達障害は急激に増えている?
それから、ご著書の中で「発達障害の子が急激に増えている」ことの誤解についても書かれていらっしゃいます。発達障害が話題になり、関連本が数多く本屋に並んでいて、発達障害の子どもが増えているように見えるのですが、そうではないのですか?
発達障害がここ20年かそこらで10倍に増えているという研究データが確かにあります。研究データなので認めなければいけないのですが、発達障害でない人が自分の判断基準を用いて評価をしているので、ちょっと疑問を持っているんですよね。真に増えているのかどうか、理屈では成り立たない。
日本の子どもを取り巻く環境は一見、自由度が高い半面で、許容度が小さく均質化した行動が要求されています。自由度が高いことがかえって混乱を招きやすく、合わせて許容度が小さいことが、混乱している子どもを不適応状態とみなして問題面を表面化させてしまうと考えています。
虐待と発達障害の関係
10年ぐらい前にADHDということで治療を受けていたお子さんが、実は虐待されていた、そのことをまとめて発表したら、小児科医の中で注目されたことがあります。
発達障害の子どもとのコミュニケーション
でも、海外では脳科学の研究が進んでいて知見が得られています。学問的に研究が進んでいます。でも日本ではまだ受け入れられていないのです。
たとえば吃音の子どもの対応として、ほとんどの人は「落ち着いてゆっくりしゃべりなさい」といいますけれど、落ち着いてゆっくりしゃべるのは本人に緊張を与えてしまうことになる。かえってプラスにはならないのです。むしろことばにつまっても、途中で意味がわからなくても、「よくしゃべったね」と受け入れる方がいいというように代わってきた。
加えて、吃音のお子さんが話しているとき、脳の活動領域が違っていることがわかってきています。吃音じゃない人は、しゃべるとき言語中枢を集中させるということなんですけれども、吃音の方はその辺のバランスのとり方がうまくいかないという可能性があるんですよね。脳の活動部位のバランスがうまくとれていないのです。
非常に敏感で緊張が強いというお子さんの場合も、コミュニケーションがうまくいかないのは親のかかわり方の問題だけではない場合があるかも知れませんね。
脳機能の問題ということがわかってきていますから、指導するにしても機能の疾患だということを踏まえて、じゃどうしたらいいか個別に考えていく必要があるんですね。
集団ですが、一人一人に応じた対応していますね
1人、2人だと緊張してしまう。相性もありますしね。かといって一般の教室みたいに大人数でみんな一緒にという風に、個々を見ないで進めていると、、、、ほぼ適切な人数でやれているのかなと思います。ことばキャンプは何回かやるので、一人一人の様子をよく確認しながらできる。それぞれのお子さんの性格が違いますし背景も違いますよね。スタッフの方が何回か接してかかわり方をもちながら、それぞれのことばを引き出すということが、秘訣なのかなと思います。
同じようなプログラムを作っていたとしても、大人数ではじめての人がマニュアル本をみながらやってもうまくいかないと思いますよ。
アイコンタクトに強いプレッシャーを感じる子ども
集団でやる意味もあると思っていて、ほかの子が姿勢いいねと褒められるとみんな姿勢が良くなっちゃう。言われてからではなく、自分で直していく。子どもって素直でかわいい (笑)。集団だからこそできることがあると思っています。
活動の中で先生にお聞きしたことが2つあります。一つは目を見るということに関して。
ことばキャンプでは「アイコンタクト」を大事にしています。発達障害のお子さんの中には、視線を合わせるのに結構強いプレッシャーを感じる子どもがいますが、ただ、回数を重ねているとアイコンタクトができてくるケースがよくあります。職員の方から「どうしてできるようになったんですか?」と不思議がられます。
衝動性が抑えられない子ども
自由に話していいし、失敗してもそれでいいんだよ
ことばキャンプの中で対応しているお子さんの中にも吃音と診断されているお子さんがいらっしゃるんですよ。ところが、話したいことが出てきて聞いてくれる環境の中でなら、話すようになってくるのです。どんどん自分から話そうとするとか、自分を変えていこうとする気持ちが良い方向に行っているというお子さんを何人か見ています。吃音なんだけれども選手宣誓に立候補して見事やり遂げた、というお子さんもいらっしゃいました。
持っているし、自分のことをうまく伝えたいという考えていると思うんですよね。ただ、先に失敗体験があって、緊張が強いんです。緊張しなくなると、本来の自分の主体性を出せるんですね。かかわり方で変わったとしたらすばらしい。選手宣誓ができるほどものすごく変わらなくても、本人が話したいことを話せた、それが周りの人から認められたということだと、主体性とか自尊感情が育まれるので、それで十分だと思います。
やらされるんではなくて自分で選んでやってみる。そこが今の教育にかけているんではないか、と常々思っているんですね。
子どもは主体性のカタマリ
「ちゃんとした子」に育てなければ、という呪縛
子育て中のお母さんから、子どもが泣くと静かにしろよと怒鳴られたり、人ごみに出るのが怖いと言う声も聞いています。社会に気を使わなければならない。それが、子どもへの対応に影響してしまうんですよね。
日本人の自尊感情はなぜ低いか
自尊感情は、レジリエンスとか心の土台の部分ですよね。日本の子どもたちの自尊感情はなぜ低いのでしょうか。
子どもがやろうとするとぜんぶ否定される、ことばで言わなくても周りの人から注意の視線が集まるような環境では、やってみようという主体性なんて出てこないのです。
臨床の現場で、就学前の子どもに自尊感情アンケート*を実施しています。4,5,6歳のお子さんですと、自分に満足しているとっていたんですけれど「自分はいいことを思いついていない」「満足していない」という答えが割と多いんですね。もっとも実施したのは医療機関だったので、親子関係に問題を抱えていたかもしれませんが。
学校と社会の問題が多い大きいですね。親の自尊感情も影響していると思うんです。親自身が自分の自尊感情をどうあげていくか、わからないんですよね。
親だって、会社や世間で批判されるというと、自分を守らなきゃならないし、自分を守ろうとすると、他人に対して厳しくなることがありますよね。時間に余裕がないときはカッときたりイライラしたりするのは仕方がないかもしれませんが、社会の許容度が小さくなっているのが加速しているように感じます。電車に乗っても2,3分遅れるだけで車掌さんが「ご迷惑かけて申し訳ありません」って何回もアナウンスし謝りますよね。
もっと、のんびり行きましょうということで(笑)
今日は、ありがとうございました。(了)
対談を終えて
「ことばキャンプ」の効果を検証するため大学院の修士課程に入学し、効果測定の尺度を探していたとき、古荘先生のご著書『日本の子どもたちはなぜ自尊感情が低いか』を拝読しました。ご著書にあったQOL尺度(世界で使われている子ども版QOL尺度を、古荘先生らが翻訳し日本で実用化)を知り「これだ!」と思い、さっそくご連絡しました。そのご縁で、先生の大学院授業の聴講生となり、ご指導を受けるようになりました。
小児精神科医として、臨床の現場で発達に課題のある子どもたちと接していらっしゃるからか、子どもや当事者の味方で視線が温かく、心強いのです。
子どもの主体性を尊重すること、これは発達障害の子どもに限らずとても大事というお話は、ことばキャンプで活動する私たちの基本的なスタンスと同じで、とても勇気づけられました。
古荘先生最新著書
発達障害とはなにか
誤解をとく
古荘 純一
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四六判並製 256ページ 選書948
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