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発達障害とコミュニケーション

古荘先生

古荘純一先生

青山学院大学教育人間科学部教授、小児科医、小児精神科医。臨床現場で一貫して、神経発達に問題のある子ども、不適応をかかえた子どもの診察を行っている。主な著書に『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか――児童精神科医の現場報告』『教育虐待・教育ネグレクト』(ともに光文社新書)等がある。

shizuka’sCafe第一回のお客様は、発達障害の専門家である古荘先生。
「発達障害のお子さんって、基本的に主体性のカタマリ。自分はやりたいことがたくさんあるから、邪魔をしないでと (笑)。おそらくそう思っているんです」と、楽しそうに話す。
子どもたちや当事者は何を考えているのか?そんな視線を持つことが彼らとのよいコミュニケーションを結ぶカギになるはずだ。
発達障害の子どもたちだけでなく、私たち一人一人みんな凸凹のある人間。相手の凸凹を、まずこちらから理解しようとすることは、誰にとっても大事なコミュニケーションの視点ではないだろうか。

発達障害は「個性」ではなく脳の「疾患」

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高取:先生の新刊『発達障害とは何か 誤解を解く』を読ませていただきました。事例が入っていて、発達障害のことがわかりやすいですね。
とくに印象的なのが発達障害を「個性」ではなく脳機能の「疾患」としてとらえるというところでした。私もよく「ADHDタイプだから」とか「あなたは自閉症タイプ」というように言っていました。脳機能の疾患としてとらえる視点で見ることの大切さについてお話しいただけますか?

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古荘:お医者さんでも発達障害を「個性」で見る考え方を持っている人もいるでしょうけれども、やはり医療的なケアが必要なお子さんはいらっしゃいます。そういった方が医学的な意味でのコアの発達障害とみていきたいのです。
たしかに、こだわりが強いとか、注意力がない、行動問題があるお子さんはいらっしゃいます。ただ、個性や環境では理解できない問題を抱えたお子さんがいるんですよね。あいまいな人たちを全部まとめて語ってしまうと、コアの発達障害の正しい理解につながらない。ほんとうに支援が必要な方への支援が届かなくなってしまうと思うのです。それを本で伝えたかったんですね。

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高取:発達障害の正しい知識を得て、理解していくことが必要なんですね。正しく理解できないと、どのようになってしまうのでしょうか?

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古荘:たとえば自閉症ですが、自閉症じゃない人から見ると自分の殻に閉じこもっているように見えるんですけれど、当事者はちっともそうではない。むしろ自分のやりたいことをやりたいのに実現しないのはなぜだろう、と混乱していることがよくあるんですね。非当事者が、自分たちの理解の中で彼らを捉えるのはどうしても限界があるし、限界があるだけじゃなくて、誤まった支援をしてしまうのです。

発達障害は急激に増えている?

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高取:誤った支援をしてしまわないように、正しく理解することが必要なんですね。
それから、ご著書の中で「発達障害の子が急激に増えている」ことの誤解についても書かれていらっしゃいます。発達障害が話題になり、関連本が数多く本屋に並んでいて、発達障害の子どもが増えているように見えるのですが、そうではないのですか?

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古荘:発達障害を「疾患」として考えると、こんなに急激に増えちゃ困るんですよね。たとえば環境ホルモンの影響で遺伝子が変化するなど、根本的な原因が出てくれば説明つくんですけれど。生活習慣の変化などで急に発達障害の人が増えるとのは考えにくいのです。
発達障害がここ20年かそこらで10倍に増えているという研究データが確かにあります。研究データなので認めなければいけないのですが、発達障害でない人が自分の判断基準を用いて評価をしているので、ちょっと疑問を持っているんですよね。真に増えているのかどうか、理屈では成り立たない。
日本の子どもを取り巻く環境は一見、自由度が高い半面で、許容度が小さく均質化した行動が要求されています。自由度が高いことがかえって混乱を招きやすく、合わせて許容度が小さいことが、混乱している子どもを不適応状態とみなして問題面を表面化させてしまうと考えています。

虐待と発達障害の関係

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古荘:この本『発達障害とは何か 誤解をとく』を書き終わった後で考えていることなんですが、発達障害の人の数が急に増えていることと、虐待の相談件数が急激に増えていることは実は関係しているんじゃないかということです。というのは、子どもの行動面の問題は親のかかわり方が影響していて、子どもにとって適切じゃないと発達障害のように見えてしまいますよね。親の問題だと虐待の相談対応の急増、子どもの問題だと発達障害の子どもの増加。別々の問題のように見えるけれども、同じものなのではないかと思うのです。

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高取:とてもおもしろい視点だと思います。『子ども虐待という第四の発達障害』(杉山登志郎著)にも、虐待によって発達障害の様相を呈する子どもがいる、と書かれていましたね。私が対応している児童養護施設の子どもたちの中にも、脳機能に疾患を持つお子さんと、虐待によって発達障害の様相を見せているお子さんとが混在しているように思いますので、すごく興味深いです。

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古荘:ただ、虐待による発達障害の方はかかわり方が良ければ改善することが多いんです。たとえばADHDのお子さんは、そわそわして不注意で多動という症状がどこでもありますけれども、養育に問題のあるお子さんだと、非常に整った環境で相手がサポートフルだとわかると、落ち着いて話をすることができるんですよね。
10年ぐらい前にADHDということで治療を受けていたお子さんが、実は虐待されていた、そのことをまとめて発表したら、小児科医の中で注目されたことがあります。

古荘先生

発達障害の子どもとのコミュニケーション

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高取:発達障害の子どもたちとのコミュニケーションで、心がけることについて教えてください。

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古荘:医学的な立場からのコメントになりますけれども、コミュニケーションという問題に対して、日本では親の養育とか心理面だけを見過ぎるということがあると思うんです。環境を調節して親がきちんとかかわれれば、コミュニケーションがとれると考えがちです。
でも、海外では脳科学の研究が進んでいて知見が得られています。学問的に研究が進んでいます。でも日本ではまだ受け入れられていないのです。
たとえば吃音の子どもの対応として、ほとんどの人は「落ち着いてゆっくりしゃべりなさい」といいますけれど、落ち着いてゆっくりしゃべるのは本人に緊張を与えてしまうことになる。かえってプラスにはならないのです。むしろことばにつまっても、途中で意味がわからなくても、「よくしゃべったね」と受け入れる方がいいというように代わってきた。
加えて、吃音のお子さんが話しているとき、脳の活動領域が違っていることがわかってきています。吃音じゃない人は、しゃべるとき言語中枢を集中させるということなんですけれども、吃音の方はその辺のバランスのとり方がうまくいかないという可能性があるんですよね。脳の活動部位のバランスがうまくとれていないのです。
非常に敏感で緊張が強いというお子さんの場合も、コミュニケーションがうまくいかないのは親のかかわり方の問題だけではない場合があるかも知れませんね。
脳機能の問題ということがわかってきていますから、指導するにしても機能の疾患だということを踏まえて、じゃどうしたらいいか個別に考えていく必要があるんですね。

集団ですが、一人一人に応じた対応していますね

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高取:以前、ことばキャンプに見学に来ていただきました。個別の対応ではなく10人程度の集団での参加なのですが・・・

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古荘:ことばキャンプを1回見せていただいただけですけれど、ちょっと考え込んでいるお子さんにはヒントをだしたり、こっそりと「どう?」って聞いたり、それぞれの子どもに応じて、ことばのコミュニケーションスキルを学ぶことを集団の中でやっていただいていると感じました。
1人、2人だと緊張してしまう。相性もありますしね。かといって一般の教室みたいに大人数でみんな一緒にという風に、個々を見ないで進めていると、、、、ほぼ適切な人数でやれているのかなと思います。ことばキャンプは何回かやるので、一人一人の様子をよく確認しながらできる。それぞれのお子さんの性格が違いますし背景も違いますよね。スタッフの方が何回か接してかかわり方をもちながら、それぞれのことばを引き出すということが、秘訣なのかなと思います。
同じようなプログラムを作っていたとしても、大人数ではじめての人がマニュアル本をみながらやってもうまくいかないと思いますよ。

アイコンタクトに強いプレッシャーを感じる子ども

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高取:試行錯誤してきたので、心強いです(笑)
集団でやる意味もあると思っていて、ほかの子が姿勢いいねと褒められるとみんな姿勢が良くなっちゃう。言われてからではなく、自分で直していく。子どもって素直でかわいい (笑)。集団だからこそできることがあると思っています。
活動の中で先生にお聞きしたことが2つあります。一つは目を見るということに関して。
ことばキャンプでは「アイコンタクト」を大事にしています。発達障害のお子さんの中には、視線を合わせるのに結構強いプレッシャーを感じる子どもがいますが、ただ、回数を重ねているとアイコンタクトができてくるケースがよくあります。職員の方から「どうしてできるようになったんですか?」と不思議がられます。

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古荘:目を見なさいというのは緊張を強くすることだし、動物の本能からみると視線を合わせるのは敵対することになり、不安が強い方には非常にプレジャーになります。ただ、受け取る方が、かならずしも視線合っていなくても表情、仕草、うなづきなどで、その子なりでいいよ、ということであればいいと思うんです。絶対にアイコンタクトしなさいというのでなければ。

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高取:そうですか。ことばキャンプでは、楽しいときに、ほめるときにアイコンタクトする。快の刺激とアイコンタクトが結びつく形でやっています。子どもがやりなさいと命令するのではなく、子どもがしたいからするであれば問題ないでしょうか?

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古荘:子どもの方から合わせてくればそれは問題ないですよね。

衝動性が抑えられない子ども

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高取: ありがとうございます。それでは、もう一つはADHDと診断されている衝動性が抑えられないお子さんの対応の仕方です。講師は自分ばかり話していたら、「今だれの時間かな?」「話すときは何だっけ?」と注意を喚起します。ある少年は、言いたくなったときに、自分の順番でないと手を口で押えて我慢するようになったり (笑)、自発的に行動修正をしている様子を見かけるのですけど、こういう対応でいいでしょうか。

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古荘:これはいつも成功することを前提にしないで、失敗もありだよということでやっているのですね。失敗しても5回のうち1回成功すれば、そのうちに2,3回と増えてくればいいかな、くらいの気持ちで行けばいいのかなと思います。

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高取:確かに失敗してもいいという余裕があるから、子どもたちは言えるんですね。

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古荘:本人が口を押えたのは、失敗したことに気づいたからですね(笑)。学校の先生は、一つできると次はこれと、どんどんハードルあげてしまうので、これだけやったのにまだまだと、達成感がないんですね。

古荘先生

自由に話していいし、失敗してもそれでいいんだよ

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高取:たしかに!先生も親も「もっともっと」と子どものハードルをあげちゃいますね。
ことばキャンプの中で対応しているお子さんの中にも吃音と診断されているお子さんがいらっしゃるんですよ。ところが、話したいことが出てきて聞いてくれる環境の中でなら、話すようになってくるのです。どんどん自分から話そうとするとか、自分を変えていこうとする気持ちが良い方向に行っているというお子さんを何人か見ています。吃音なんだけれども選手宣誓に立候補して見事やり遂げた、というお子さんもいらっしゃいました。

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古荘:基本的に、コミュニケーション障害のあるお子さんでも話したいという気持ちは
持っているし、自分のことをうまく伝えたいという考えていると思うんですよね。ただ、先に失敗体験があって、緊張が強いんです。緊張しなくなると、本来の自分の主体性を出せるんですね。かかわり方で変わったとしたらすばらしい。選手宣誓ができるほどものすごく変わらなくても、本人が話したいことを話せた、それが周りの人から認められたということだと、主体性とか自尊感情が育まれるので、それで十分だと思います。

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高取:大人になって社会生活ができるようになるために、話すこと聞くことを練習する。場数を踏んで成功体験を増やして行く場になってくれたらいいなと思っています。

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古荘:練習ということではなくて自分がやりたいようにやればいいよ、しゃべっていいんだよということであれば、いいですね。自由に話していいし、失敗してもそれでいいんだよ、認めるということですね。 

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高取:子どもが自分が話したいことを自由に話していいし、失敗してもいいよという視点、私たちも大切だと思っています。お話をお聞きしていて、キーワードは「主体性」だと感じています。そこがもしかしたら、意欲的になったり無理と思っていたことでもできるぞと思える、そこが子どもの成長の鍵なのではないかと感じているんです。
やらされるんではなくて自分で選んでやってみる。そこが今の教育にかけているんではないか、と常々思っているんですね。

子どもは主体性のカタマリ

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古荘:まったく同意します。発達障害のお子さんて、基本的に主体性のカタマリなんです。たとえばADHDのお子さんは、自分はやりたいことがたくさんあって、あなたたちの相手はできない、私は忙しいのだから邪魔をしないでくださいと(笑)。おそらくそう思っているんです。ADHDのお子さんですとわかりやすいけど、自閉症のお子さんはわかりにくい。自閉症の人は、自分が得た情報はこうであって、こう反応したいんだけれど、今目の前でおこっている現象は私たち当事者ではない周囲の人が得た情報と違う。お互いに同じものを見ても違う情報として受け取るから、出る行動は当然違う。ところがこれが逸脱行動、とみなされてしまう。だから、集団の中にいると発達障害のお子さんは主体性を発揮する場がなかった。これは支援する側でも非常に重要なことだと思います。主体性を発揮するのが全然なかったんじゃないかと。

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高取:せっかく持っているいいものもつぶされちゃう感じですよね。周囲の方はその子のほんとうにやりたいことを、「おもしろい発想するんだなあ」ってみてあげるということなんですかね。発達障害のお子さんに限らず、子どもは主体性のカタマリですよね。それなのに、子どもの主体性を発揮させてあげられないんですね。

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古荘:重要だと思うんですけれど、親もゆとりがないし社会もゆとりがない。これは社会の許容度が小さくなってきているから、どうしても型にはめようとしてしまう。発達障害の子どももそうでないお子さんも、みんな窮屈なんですよね。

「ちゃんとした子」に育てなければ、という呪縛

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高取:私は母親の支援たちと接することが多いので、親自身が世間のプレッシャーにさらされていて、多くの親が「ちゃんとした子」に育てなければと思っているのを感じています。だから、虐待とまではいかなくても、余裕を持って子どもを育てられない、そういう親が増えてきています。
子育て中のお母さんから、子どもが泣くと静かにしろよと怒鳴られたり、人ごみに出るのが怖いと言う声も聞いています。社会に気を使わなければならない。それが、子どもへの対応に影響してしまうんですよね。

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古荘:そうですね。余裕を持って子育てできないのは社会の問題ですよ。子どもが騒いだだけで、周りの人に謝らなければならない。子どもは泣くものなのに、泣いたら叱るという社会。昔はなかったと思うんですけれど。

古荘先生

日本人の自尊感情はなぜ低いか

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高取:古荘先生には、やはり自尊感情についてお聞きしなければ、帰れないです(笑)。
自尊感情は、レジリエンスとか心の土台の部分ですよね。日本の子どもたちの自尊感情はなぜ低いのでしょうか。

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古荘:やっぱりこれは、親の幼児期のかかわり方、親だけではなくて社会にも関係していると思うんです。社会全体の許容度が小さくなっているということは、自尊感情を育む土壌がないのかな、と最近思いますね。
子どもがやろうとするとぜんぶ否定される、ことばで言わなくても周りの人から注意の視線が集まるような環境では、やってみようという主体性なんて出てこないのです。
臨床の現場で、就学前の子どもに自尊感情アンケート*を実施しています。4,5,6歳のお子さんですと、自分に満足しているとっていたんですけれど「自分はいいことを思いついていない」「満足していない」という答えが割と多いんですね。もっとも実施したのは医療機関だったので、親子関係に問題を抱えていたかもしれませんが。
学校と社会の問題が多い大きいですね。親の自尊感情も影響していると思うんです。親自身が自分の自尊感情をどうあげていくか、わからないんですよね。
親だって、会社や世間で批判されるというと、自分を守らなきゃならないし、自分を守ろうとすると、他人に対して厳しくなることがありますよね。時間に余裕がないときはカッときたりイライラしたりするのは仕方がないかもしれませんが、社会の許容度が小さくなっているのが加速しているように感じます。電車に乗っても2,3分遅れるだけで車掌さんが「ご迷惑かけて申し訳ありません」って何回もアナウンスし謝りますよね。
もっと、のんびり行きましょうということで(笑)

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高取:ほんとうに!大らかにのんびりいきたいですね。
今日は、ありがとうございました。(了)

対談を終えて

「ことばキャンプ」の効果を検証するため大学院の修士課程に入学し、効果測定の尺度を探していたとき、古荘先生のご著書『日本の子どもたちはなぜ自尊感情が低いか』を拝読しました。ご著書にあったQOL尺度(世界で使われている子ども版QOL尺度を、古荘先生らが翻訳し日本で実用化)を知り「これだ!」と思い、さっそくご連絡しました。そのご縁で、先生の大学院授業の聴講生となり、ご指導を受けるようになりました。
小児精神科医として、臨床の現場で発達に課題のある子どもたちと接していらっしゃるからか、子どもや当事者の味方で視線が温かく、心強いのです。
子どもの主体性を尊重すること、これは発達障害の子どもに限らずとても大事というお話は、ことばキャンプで活動する私たちの基本的なスタンスと同じで、とても勇気づけられました。

古荘先生最新著書

18322

発達障害とはなにか

誤解をとく
古荘 純一
ISBN:9784022630483
定価:1620円(税込)
発売日:2016年8月10日
四六判並製 256ページ 選書948
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